授業科目名 年度 学期 開講曜日・時限 学部・研究科 全担当教員 単位数
12789:[2025 秋セメスター]IR18‐DJ104 平和学入門(R2) § 12790:IR-DR104 平和学入門(R2) 2025 秋セメスター 金3 国際関係学部 中野 克彦 2

キャンパス

衣笠

授業施設

敬学館KG009号教室

授業で利用する言語

日本語

授業の概要と方法

【+R授業について】
9月20日までにmanaba+Rのコースニュースに+R授業の案内を掲載する。必ずmanaba+Rのコースニュースを確認すること。

【授業の概要】

■授業の目的

「平和」は、国際関係のあらゆる局面において最も重要なテーマであり、「平和」を考えることは世界と関わっていくために必要不可欠である。それゆえ平和学は、国際関係学で扱う各テーマの土台といってよく、すべての学問分野と関連している。

しかしながら、一般的に「平和」という概念は漠然としている。歴史を見れば、「平和」を大義名分に掲げて戦争が生じてきたことからも理解されるように、政治的に利用、悪用、誤用されやすい「危うい」概念でもある。

そこで本講義では、様々な視点から「平和」の概念を相対化し、平和学をもとにその意味を多角的に追及する。そして「平和」形成の条件について、現代国際社会の諸実例をもとに議論していく。また、「平和」をテーマに、世界の各地域や分野で活動するアクターの実践を紹介する。以上から、我々が直面する危機状況を乗り越える知見と未来的世界観を切り開くことを目指す。パワーポイントと映像・画像資料を駆使し、多面的な理解の促進につとめる。

■問題意識:「平和とは何か?暴力とは何か?」

議論の出発点となるのは、「平和とは何か?」である。

現在、私たちは新たな世界的危機に直面している。ウクライナ・ロシア戦争、中東紛争、核の脅威、人種差別、民族差別、ジェノサイド、環境破壊、地球温暖化、パンデミック、資源紛争、飢餓、格差、テロの激化、難民移民問題などである。こうした危機の構図を解きほぐしながら、ガンジーやキング牧師が提唱した平和的な社会モデルへの道を根底から考え直そうとするのが、この講義の目的である。

そして、「平和」という概念そのものにも、深く切り込んでいく。一般的には「平和=戦争がないこと」と考えられがちである。もちろん戦争の不在は「平和」の絶対条件である。しかしたとえ戦争がないからといって、構造的な搾取や経済格差が拡大し、貧困で多くの人々が亡くなる状況があれば、「平和」といえるのか。また、人種差別、民族差別、ジェンダー差別が存在するとすれば、「平和」といえるのか。環境破壊、地球温暖化、パンデミック等によって飢餓・格差が深刻化し、食料争奪によって紛争やテロが激化し、社会的弱者が難民化したり、排除されるという「暴力」状況があれば、「平和」といえるのか。こうした「暴力」状況に対する不作為、放置、無関心が、社会分断をますます深刻化させ、やがて戦争などの大規模暴力に繋がっていくのではないだろうか。

上述の点を考えるために、「直接的暴力」「構造的暴力」「文化的暴力」という概念を導入し、「平和」と「暴力」の意味を拡大する。そして、様々なタイプの「暴力」が、「共生」をどう阻んでいるかを考える。「人間と環境の共生」「人間どうしの共生」という問題を設定し、個別テーマについて議論を進める。

■授業の方法:対面による講義形式

■manaba+Rの利用方法

コースニュースには、講義運営の重要通知、質疑応答等を逐次掲載。コンテンツには資料等を格納。
掲示板には、講義内容に関連する時事報道を掲載していく。

■質疑応答、フィードバック方法

・各回ごとに出席カードを提出すること。出席カードの自由記述欄には感想等を書くことができる。

・講師は講義実施後に、出席カードに記載された受講生の感想や質問をチェックする。その内容によって、受講生の理解度を確認し、次回講義の内容に反映させる。質問については、内容を集約したうえでmanaba+Rで回答する(マナバのコレクションでも随時受け付ける)。

・講師のメールアドレスをmanaba+Rで公開する。

・レポートについては、manaba+Rに講評を掲載する。出題意図の説明と模範解答を示し、どの点が評価できるかを具体的に解説する。なお理解不足の点や今後のレポート執筆に向けた改善点も解説する。優れたレポート(もしくは模範解答)を匿名の上公開することもある。

受講生の到達目標

・平和学の考え方を理解し、「平和」と「暴力」をより広い観点から捉えることができる。
・「直接的暴力」「構造的暴力」「文化的暴力」など平和学の概念を様々な実例をもとに理解できる。
・「平和」を戦争との関連に加え、環境問題、食料問題、貧富の格差、搾取、民族差別など、世界が直面する諸問題と関連付けて理解し、論じることができる。
・兵器産業および核開発の歴史が、どのような政治・経済体制で展開したかを理解できる。また、現下の兵器開発競争が拡大していけば、人類がどのような危機に直面するかを理解できる。

事前に履修しておくことが望まれる科目

並行して国際関係学にかかわる講義を幅広く受講することが望ましい。

授業スケジュール

授業回数/
担当教員(複数担当の場合)
テーマ
キーワード・文献・補足事項等
1

平和学の基礎概念

・概要とスケジュール。成績評価についての説明。
・平和学の基本概念:「直接的暴力」「構造的暴力」「文化的暴力」「消極的平和」「積極的平和」

2

地球環境問題と平和の関係

・人間、資源、紛争の関係性。「食料戦争」。
・SDGsの思想と「平和」への新たな視点
・参考:井出留美『食料危機: パンデミック、バッタ、食品ロス 』(PHP研究所)。

3

差別・排除の論理と戦争

・奴隷制度の歴史と米国近代産業の関係。
・人種差別と公民権運動の歴史。キング牧師の非暴力主義、マルコムXの思想と運動。
・公民権運動は米国社会をどのように変化させたか。
・ポリティカル・コレクトネスとアファーマティブ・アクション。
・多文化主義の歴史と歴史的意義。
・Black Lives Matter運動をどう捉えるか。
・アメリカの「分断」:多文化主義とそれに対する反発。

■参考映像
・映画『グリーンブック』
https://www.youtube.com/watch?v=awUd_khNEcc
・非暴力主義とは:番組「知ってるつもり:ガンジーとキング牧師」https://www.youtube.com/watch?v=Hs86OFXkqx4

■参考文献
・阿部浩己「差別・排除の克服は平和の礎となるか」『平和をめぐる14の論点』論点4

4

平和と多文化主義

・「文化的暴力」の概念をより深く理解する。
・多文化主義とは何か。民族と宗教の共生をめぐる現状と諸問題。

5

危機に直面する多文化主義:テロリズムの背景と格差構造

・2001年「9.11同時多発テロ事件」(アメリカ)の背景。
・2005年「パリ郊外暴動事件」の背景。
・2015年「シャルリ・エブド事件」(フランス)の背景。
・パリ同時多発テロ事件以降、移民難民をめぐる格差構造の克服に向けた実践例(ベルギー等)。

6

平和と経済:構造的暴力の克服に向けた国際協力のあり方とは?

・新自由主義に代表される経済思想、経済体制の歴史とその影響。
・各種国際機関のレポートをもとに、世界的に拡大する貧富の差を理解する。
・現代の経済体制と環境破壊の関係性について。
・新自由主義がもたらした影響。

■参考文献
・ジャック・アタリ『命の経済:パンデミック後、新しい世界が始まる』(プレジデント社)。
・ハラリ『緊急提言:パンデミック』(河出書房新社)。
・藤岡惇「現下の世界恐慌をどうとらえるか:いったん起こると「底が抜ける」理由と克服策を探る」(『立命館経済学』第59巻第5号)。
・土佐弘之「新自由主義的グローバル化は暴力をもたらしているか」『平和をめぐる14の論点』論点3

7

構造的暴力とパンデミック:経済格差と健康格差

・貧富の格差(構造的暴力)と感染症の歴史。
・自然破壊、経済格差、新興感染症(人獣感染症)パンデミックの関連性。
・新興感染症拡大の要因として「格差」「貧困」に注目した、M.マッケンナ「感染症との終わりなき戦い:コレラから新型コロナまで」。
・国際政治と「健康格差」の問題について論じた、詫摩佳代『人類と病:国際政治から見る感染症と健康格差』。
・人間と自然の共生を通じて感染症を捉えなおす「ワンヘルス」の思想。

■参考文献
・ジョーゼフ・マコーミック『レベル4/致死性ウイルス』(早川文庫)。
・『感染症 ウイルス・細菌との闘い (別冊日経サイエンス238)』(2020年4月)
・WWF「「ワンヘルス(One Health)」~次のパンデミックを防ぐカギ」
https://www.wwf.or.jp/activities/basicinfo/4546.html

8

ウクライナ・ロシア戦争と軍産複合体:兵器産業の発展と戦争

・軍産複合体とは何か。軍産複合体と戦争の歴史。
・軍事予算の増大とアメリカ社会の変化。
・ウクライナ・ロシア戦争の背景にあるエネルギー問題と軍需産業の構造。

■参考文献
遠藤誠治「平和を求めるなら戦争の準備をすべきか」『平和をめぐる14の論点』論点1。

9

核問題:「安全保障」を平和学の視点から捉えなおす

・「マンハッタン計画」から戦後の核開発競争へ。
・核抑止論。
・キューバ危機、デタント、軍縮の歴史とその背景。
・核兵器禁止条約のインパクト。
・新たな核開発、兵器開発競争と危機状況。
・現下の兵器開発競争が拡大していけば、今後人類がどのような危機に直面するか?

■参考文献
・中村桂子『核のある世界とこれからを考えるガイドブック』(法律文化社)。
・川崎哲『核兵器はなくせる』(岩波書店)。
・藤岡惇「原爆投下と敗戦の真実:米国の「アメとムチ」作戦の全貌」(『立命館経済学』第65巻14)。
・藤岡惇「極超音速ミサイルの衝撃:宇宙核戦争に勝者はいるか」(『世界』2022年1月号)

■参考映像
・スタンリー・キューブリック監督映画『博士の異常な愛情、または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか』

10

イスラエル/パレスチナの軍事衝突の背景:構造的暴力、文化的暴力の視点から読み解く

・なぜイスラエルとガザ地区の軍事衝突が繰り返されるのか。
・「民族、宗教対立」の背景にある植民地主義、帝国主義の歴史。
・中東紛争とアメリカとの関係。
・2023年10月以降のイスラエル・ハマス軍事衝突の背景を読み解く。

■参考書
・池上彰『中東:混迷の本当の理由』(小学館)。

■参考映像
・映画『ガザの美容室』(パレスチナ映画)https://www.uplink.co.jp/gaza/
・映画『歌声にのった少年』(パレスチナ映画)https://www.youtube.com/watch?v=TkLwz2FnOJA&feature=emb_logo
・ドキュメンタリー「天井のない監獄に“灯り”を:パレスチナ暫定自治区ガザ 2019」(JNNドキュメンタリー ザ・フォーカス)
https://www.youtube.com/watch?v=a0zxOwY7OsY

11

中東情勢と人間の安全保障

・9.11NY同時多発テロ以降のアフガニスタン戦争、イラク戦争。
・ベーシックニーズ及び社会基盤「共有財」保障による平和構築の可能性。
・中東における紛争抑止のための国際協力。

■参考文献
中村哲『医者、用水路を拓く:アフガンの大地から世界の虚構に挑む』(石風社)。

12

文化的平和の運動(構造的暴力・文化的暴力を乗り越えるために)1:ブラジル

・新自由主義と自然破壊。アマゾンの「違法開発」と先住民の現状。
・アマゾン先住民運動から始まった国際的な先住民運動ネットワーク。
・平和学的視点から捉える持続可能な開発、コミュニティ再生、環境保護。

13

文化的平和の運動(構造的暴力・文化的暴力を乗り越えるために)2:中南米

・中米からアメリカへの「移民キャラバン」発生の原因。難民発生の構造的要因。植民地主義経済、自然破壊、気候変動、貧富の格差、新自由主義、社会的暴力の蔓延、難民化。
・南米における構造的暴力を変革しようとする社会運動の現状。
・ブラジルのファベーラ・アート運動。芸術を通じたコミュニティ再生運動の意義。
・ベネズエラの音楽教育プログラム「エル・システマ」の社会的意義。

■参考文献
・工藤律子『マラス:暴力に支配される少年たち』(集英社)。
・村山祐介『エクソダス:アメリカ国境の狂気と祈り』(新潮社)。

■参考映像
・ブラジル:映画『ストリート・オーケストラ』https://www.youtube.com/watch?v=XJWFJ7lkz5Q
・ブラジル:ファベーラ・アート運動(TED映像)
https://www.ted.com/talks/haas_hahn_how_painting_can_transform_communities/transcript?language=ja
・パラグアイ:「リサイクル・オーケストラ」
https://www.youtube.com/watch?v=yYbORpgSmjg

14

「立命館国際平和ミュージアム」を通じた平和学の進化と展望

平和博物館での学びを通じた平和学習の深化。立命館国際平和ミュージアムの紹介。沿革、理念、意義、見学のポイント。展示を通じて考える平和学の進化(深化)とこれからの展望。

授業実施形態

第1回~14回目:対面による講義

授業外学習の指示

■授業外学習の方法

・平和学関連の最新情勢の分析
重要なのは、授業で得た知識と理解をもとに、さらに自分なりに調査と研究を進めていく積極的取り組みである。講師はそのために、授業内容を補足する最新情勢をmanaba+Rで随時配信する(報道機関については、ロイター、AP、AFPなど主要通信社、ニューヨーク・タイムズ、ワシントン・ポストをはじめ、国内外の主要メディア)。それらの情報をフォローすることで、平和に関連する世界の最新動向を把握する。

・毎回復習用の資料の読み込み、映像資料等のチェック
毎回の授業で、復習用の資料を指定する。それに目を通し、理解を深めるようにする。重要な点を自分なりにノートに纏めておく。授業内容のさらなる理解のために参考となる映像資料については、manaba+R上で紹介するのでチェックしておくこと。

成績評価方法

種別 割合(%) 評価基準等
定期試験(筆記) 0

レポート試験
(統一締切日を締切とするレポート)

上記以外の試験・レポート、平常点評価
(日常的な授業における取組状況の評価)
100

・期末レポート
現代世界が抱える諸問題と今後の平和秩序のあり方について、平和学の視点から考察、分析した期末レポートを執筆する。字数は2000字以上。manaba+Rを通じて期日までに提出すること。

・講義期間中の「小レポート」
(上記「期末レポート」とは別に)講義期間内に、小レポートの提出を求める。小レポートの必要字数、期日については講義で発表する。manaba+R上で直接入力形式により提出すること。

・出席点・平常点
毎回講義終了後に、出席カードの提出を求める。その提出をもって出席点とする。出席カードには、講義に対する感想やコメントを書くことができる。その内容も平常点評価の対象となる。また、立命館国際平和ミュージアムの展示見学を通じた学習結果についても、評価に含める。

成績評価方法(備考)

成績は、授業への参加の様子、レポート提出をもって、総合的に判断する。

受講および研究に関するアドバイス

この講義では、manaba+Rのコースニュースで、授業の補足と重要な通知を行いますので、
出来る限り、コースニュースのリマインダー受信設定を、◯にして下さい。

教科書

教科書(使用頻度、その他補足)

参考書

書名 著者 出版社 ISBNコード 備考
平和学を学ぶ人のために 君島東彦編 世界思想社 978-4790714200
ガルトゥング平和学の基礎 ヨハン・ガルトゥング 法律文化社 978-4589040275
ガルトゥングの平和理論──グローバル化と平和創造 ヨハン・ガルトゥング 法律文化社 978-4589029577
入門 人間の安全保障 増補版-恐怖と欠乏からの自由を求めて 長 有紀枝 中公新書 978-4121921956
新自由主義:その歴史的展開と現在 デヴィッド・ハーヴェイ 作品社 4861821061
コロナ危機と未来の選択:パンデミック・格差・気候危機への市民社会の提言 アジア太平洋資料センター コモンズ 4861871697
命の経済:パンデミック後、新しい世界が始まる ジャック・アタリ プレジデント社 4833423871
逆転の大戦争史 オーナ・ハサウェイ スコット・シャピーロ 文藝春秋 978-4-16-390912-7
非核兵器地帯:核なき世界への道筋 梅林宏道 岩波書店 978-4000245111
黒人差別とアメリカ公民権運動 ―名もなき人々の戦いの記録 ジェームス・M・バーダマン 集英社 978-4087203929
中東:混迷の本当の理由 池上彰 小学館
核のある世界とこれからを考えるガイドブック 中村桂子 法律文化社 458904076X
壊れゆく世界の標 ノーム・チョムスキー NHK出版 978-4140886878
医者、用水路を拓く:アフガンの大地から世界の虚構に挑む 中村哲 石風社 4883441555
平和をめぐる14の論点:平和研究が問い続けること 日本平和学会(編) 法律文化社 978-4-589-03954-5C3031

参考書(使用頻度、その他補足)

講義で必要な部分を講師がコピーして提示する。

参考になるwwwページ

<講義予習用リンク>

・「核兵器のない世界に向けて」(外部リンク):核兵器を巡る世界の現状
https://hiroshimaforpeace.com/wp-content/uploads/2021/12/HRBooklet2021.pdf

・「核軍縮等に関する「ひろしまレポート2021年版」」
https://hiroshimaforpeace.com/wp-content/uploads/2021/04/HR2021-ES-J.pdf


授業内外における学生・教員間のコミュニケーションの方法

コミュニケーションペーパー,manaba+R,その他(教員より別途指示)

備考

この授業では常に、最新のニュースを授業内容に反映させます。常に変化する国際社会を扱い、「生きた学問」として平和学に取り組むためです。そのため情勢によっては、シラバスで提示したスケジュールを若干変更する可能性もあります。その場合は授業で変更の趣旨を説明します。なお、「受講生の到達目標」「成績評価方法」は変更しません。
【科目ナンバリング・カリキュラムマップはこちらから/Click here to see the Curriculum-Map and Course-Numbering】
URL:https://secure.ritsumei.ac.jp/students/pathways-future/course/curriculum.html/