授業科目名 | 年度 | 学期 | 開講曜日・時限 | 学部・研究科 | 全担当教員 | 単位数 |
---|---|---|---|---|---|---|
11856:西洋法史(J) | 2021 | 秋セメスター | 水2,木3 | 法学部 | 高橋 直人 | 4 |
キャンパス
授業施設
授業で利用する言語
授業の概要と方法
前半では、近代法の形成を動態的かつ連続的な視点から把握していくために、近世に遡って考察を行います。具体的な内容としては、①神聖ローマ帝国の国制、②近世の法学とその担い手、 ③近世の裁判と社会-魔女裁判からみえてくるもの、④啓蒙の光と影-18世紀の法改革とその多面性、という4つのテーマを取り上げます。 ※なお、古代や中世の法について、それ自体としては本講義のテーマに含めていませんが、上記の①~④を学ぶうえで必要な範囲において個別に取り上げます。
後半では、⑤公法(ドイツ帝国の成立および前史-特に憲法史との関連から)、⑥私法(歴史法学派と19世紀の私法)、⑦刑事法(ドイツ近代刑事法史)、という3つの分野における近代ドイツの法(学)の展開について取り上げます。また近代のドイツやフランスの法と日本法との比較を通じ、日本の法文化の特色についても考えてみたいと思います。
毎回パワーポイントを使用し、チャートや写真を取り入れたヴィジュアルな授業を行います。
以上のようなテーマで学ぶことを通じ、単に近代法の基本的な考え方だけでなく、その前提にある人間観や国家観、社会観についても理解を深めることが本講義の重要な課題です。例えば、個人を自由な意思主体であるとする人間観が自覚的に法理論の基礎に組み込まれるに至ったことについては、啓蒙思想の影響を考えることなしには正確な理解ができません。人間の自由と平等が尊重され、国民に開かれた政治が実現されるためには、大前提として、近代以前の国家が依拠していた身分制を解体することが不可欠でした。経済的な観点からいえば、国家の介入から独立した私法秩序や資本主義的な「市場」というものは、上記の身分制の解体と同時に、封建制の否定や中間団体(例:同職組合)の特権の廃止があってこそ、初めて成り立つものです。このように、前提となる人間・国家・社会のあり方との関わりを含めて理解してこそ、近代法の基礎となる考え方を皆さん自身のものとすることができます。それは同時に、社会や政治との関わりをふまえて法を見る目を養うことにもつながるのです。
その上で、過去の法の現実を生き生きと描き出すためには、政治・経済と法との影響関係といったマクロな次元のみならず、たとえば法曹をはじめとする法の担い手の活動や大学における法学教育の状況、法学の「学問」としてのあり方、法の改革と同時代のメディアやコミュニケーションのあり方との関わりなど、過去の法を取り巻く具体的な諸環境に踏み込んだ法社会史的な切り口からの考察も欠かせません。それによって、近世・近代ドイツの法の世界を分かりやすくイメージできるよう講義内容を工夫しています。
なお、授業内容に関する質問については、 口頭(対面授業およびライブ配信授業の前後)またはメールで随時受け付け、回答します。提出課題に関しても、授業内にて適宜、口頭による講評を行います。
受講生の到達目標
2 近世からの歴史の流れもふまえた動態的かつ連続的なかたちで、近代法(学)の形成過程を理解することができる。
3 上記1・2の獲得過程を通じ、併せて、社会や政治との関わりを意識して法を考察する姿勢を身に付ける。
事前に履修しておくことが望まれる科目
また、法哲学や法社会学などの他の基礎法科目、さらには憲法・民法・刑法に関する実定法の基本的な科目は履修しておく方が、幅広い視野をもって授業に臨むことができます(もっとも、この点は西洋法史の場合に限ったことではありませんが)。
授業スケジュール
授業回数/ 担当教員(複数担当の場合) |
テーマ |
---|---|
キーワード・文献・補足事項等 | |
1 | 西洋法史の世界へようこそ―授業のポイントおよび導入講義 |
神聖ローマ帝国の多様性、ドイツと連邦制、帝国とラント、ドイツの近代化のプロセスと統一のプロセス |
|
2 | 神聖ローマ帝国の国制① |
帝国の二元的構造、皇帝、帝国等族、領邦等族 |
|
3 | 神聖ローマ帝国の国制② |
帝国議会、帝国最高法院、選定候、帝国宮廷顧問会議 |
|
4 | 神聖ローマ帝国の国制③ + ローマ法の継受とその後の展開 |
普通法と地方法、帝国の立法、ローマ法の継受、学識法曹、人文主義法学、パンデクテンの現代的慣用 |
|
5 | 近世の法学とその担い手① |
ボローニャ大学の誕生と法解釈学の登場(※中世)、中世の大学とその組織、近世の大学とその組織 |
|
6 | 近世の法学とその担い手② |
近世の法学部のカリキュラムと授業形態、近世の大学における学生生活、18世紀に求められた法律家像 |
|
7 | 近世の法学とその担い手③ |
普通法学、普通刑事法学と啓蒙、刑事法学の「補助学」、刑法家たちの意識、刑事法改革と「世論」 |
|
8 | 近世の裁判と社会―魔女裁判からみえてくるもの① |
近世における魔女のイメージ、魔女処罰の規定、カロリーナ刑事法典 |
|
9 | 近世の裁判と社会―魔女裁判からみえてくるもの② |
糾問(糺問)手続の仕組み、魔女裁判にみられる不当な手続、裁判当局の姿勢 |
|
10 | 近世の裁判と社会―魔女裁判からみえてくるもの③ |
帝国やラントの権力構造の魔女迫害への影響、知識人の関与、民衆の意識と「下からの魔女狩り」 |
|
11 | 「18世紀=啓蒙の時代」とはいかなる時代か―啓蒙期の改革を理解するために― |
「啓蒙」とは何か、身分制的な社会構造の変容、啓蒙と絶対主義、教養市民層、メディアやコミュニケーションの変化 |
|
12 | 啓蒙の光と影―啓蒙期の法改革とその多面性① |
啓蒙絶対主義、「神の法から国家の法へ」、社団国家と中間権力(中間団体)、近世自然法論、自然法的法典編纂 |
|
13 | 啓蒙の光と影―啓蒙期の法改革とその多面性② |
啓蒙期の法典編纂過程の特徴(承前)、啓蒙の人間観と近代法の発展への影響、帰責論 |
|
14 | 啓蒙の光と影―啓蒙期の法改革とその多面性③ |
「世俗化・合理化・人道化」、犯罪と刑罰との均衡、拷問の廃止、バイエルンの「魔女戦争」、ベッカリーア、『犯罪と刑罰』 |
|
15 | 啓蒙の光と影―啓蒙期の法改革とその多面性④ |
「上からの改革」の限界、等族的国制による限界、フランス革命、男性有産市民の権利、ナシオン主権とプープル主権、近代的な私法秩序の端緒と資本主義的「市場」の創出 |
|
16 | ドイツ帝国の成立および前史―特に憲法史との関連から① ※ この回以降、講義の「後半」 |
神聖ローマ帝国の崩壊、ウィーン体制とドイツ同盟(連邦)の成立、ナポレオン時代のドイツ諸邦国の改革、ベルリン大学とフンボルト理念、ドイツ同盟規約、同盟規約と「ラントシュテンデ制」 |
|
17 | ドイツ帝国の成立および前史―特に憲法史との関連から② |
メッテルニヒの反動的政策、1848年の革命、大ドイツ主義と小ドイツ主義、フランクフルト国民議会、フランクフルト憲法 |
|
18 | ドイツ帝国の成立および前史―特に憲法史との関連から③ |
プロイセン憲法、三級選挙法の仕組み、プロイセン主導のドイツ統一、帝国憲法(ビスマルク憲法) |
|
19 | 歴史法学派と19世紀の私法① |
19世紀前半のドイツ私法の状況、法典論争、サヴィニーの立場、ティボーの立場 |
|
20 | 歴史法学派と19世紀の私法② |
サヴィニーとティボーの対立の構図、同時代の思想状況、歴史法学、ロマニステンとゲルマニステン |
|
21 | 歴史法学派と19世紀の私法③ |
19世紀ドイツの学界状況、パンデクテン法学、ドイツ民法典の編纂過程、民法典の特徴 |
|
22 | ドイツ近代刑事法史① |
19世紀の刑事立法史の概観、19世紀初頭の刑事法の法源、いわゆる「裁判官の恣意」の実態 |
|
23 | ドイツ近代刑事法史② |
フォイエルバッハの刑法理論の特徴、心理強制説、カントとヘーゲルの刑法思想、自由意思論をめぐる争い |
|
24 | ドイツ近代刑事法史③ |
意思の自由、裁判官の恣意、そして国家権力 / 糾問手続の問題点と新たな改革の主張
|
|
25 | ドイツ近代刑事法史④ |
19世紀後半のドイツにおける刑事立法 / プロイセン刑法典(1851年)/ 帝国刑法典(1871年) / 責任能力および「自由」に対する考え方の変化 / 学問(Wissenschaft)としての刑事法学の誕生 |
|
26 | 近代法史の部分についての講義の全体像とポイントの再整理(※必要に応じて補足も含む) |
※ 第1回~第25回までのキーワードを参照せよ〔復習〕 |
|
27 | 近代日本における西洋法(学)の継受①―刑法分野・前編 |
近代日本刑法史の3つの段階、旧刑法成立以前の状況、旧刑法の特徴、不平等条約改正との関連 |
|
28 | 近代日本における西洋法(学)の継受②―刑法分野・後編 |
ボワソナードの「折衷主義」、現行刑法成立の背景、現行刑法の特徴、旧刑法との対比 |
|
29 | 近代日本における西洋法(学)の継受③―憲法分野 |
明治憲法(大日本帝国憲法)、プロイセン憲法との比較、明治憲法下の状況の問題点、天皇機関説事件 |
|
30 | 補説: 日欧間で法的な知とその担い手はどのように違うのか |
法の担い手の歴史 / 法的な知の多様な社会的存在形態 / 敢えて大学で、敢えて学問として法的な専門知識を学ぶことの意義を考える |
授業実施形態
対面授業を原則とし、教室に来れない理由のある者に対してライブ配信を提供し、更にやむを得ない理由により当該授業の時間にライブ配信も含め受講できなかった者に対し、録画データ等の授業資料をオンラインで提供します。
原則として、すべての授業回でこの形態で実施します。オンラインでの授業資料の提供方法は、Panoptoによる録画データの配信とします。
【BCP レベル 3~4 の場合】
この授業が予定されている曜日時限にオンラインでライブ配信形式で実施します。
授業外学習の指示
成績評価方法
種別 | 割合(%) | 評価基準等 |
---|---|---|
定期試験(筆記) | ||
レポート試験 (統一締切日を締切とするレポート) |
0 | |
上記以外の試験・レポート、平常点評価 (日常的な授業における取組状況の評価) |
100 | 平常点評価100%、具体的には下記のレポートおよび課題に基づく評価を100 %とします。
|
成績評価方法(備考)
受講および研究に関するアドバイス
法の歴史そのものについては、初心者にも分かりやすく基礎から説明します。ただし、法の歴史を理解するために必要な大学受験レベルの基本的な知識(世界史・日本史、政治、哲学・思想、地理)および1回生終了程度の法学一般の基礎知識に関しては、それらを受講者がすでに有しているという前提で講義を行います。不安な場合、各自で十分な予習を行うこと。特に近世・近代のドイツやフランスの歴史については、些末な暗記は必要ありませんから、基本的な出来事や人物、大きな流れ程度はきちんと把握して授業に臨むようにしてください。「世界史が分からない」または「受験時に世界史を選択していなかった」等々のことは、西洋法史が分からないという理由にはなりません。
教科書
教科書(使用頻度、その他補足)
参考書
参考書(使用頻度、その他補足)
参考になるwwwページ
授業内外における学生・教員間のコミュニケーションの方法
備考
URL:http://www.ritsumei.ac.jp//students/pathways-future/course/curriculum.html