授業科目名 年度 学期 開講曜日・時限 学部・研究科 全担当教員 単位数
15511:IR18‐FJ206 特殊講義(固有専門関連科目)(RE) § 15512:IR-EDR205 特殊講義(固有専門関連科目)(RE) 2023 秋セメスター 月4 国際関係学部 山本 忠通 2

キャンパス

衣笠

授業施設

恒心館KS209号教室

授業で利用する言語

日本語

授業の概要と方法

国連事務総長特別代表として、アフガニスタンでの国連の活動を約6年間(そのうち1年半は副代表)統括した経験とそれに先立つ40年間日本の外交官として活動した経験を基に、国際社会、特に国連の平和活動についてその目的、課題及び問題点を学ぶ。国際社会では紛争が絶えず、平和を回復し、社会を安定させるための活動は複雑さを増している。平和活動は、治安維持、政治的安定、和平、人権の確保、人道・開発援助など多岐に及ぶ総合的な活動である。現在の国連の平和活動の実情を概観するとともに(その際日本の活動も見る)、授業の多くを、アフガニスタンでの具体的な活動を例に、実際の活動はどのように行われているのか、また、どのような問題に直面しているのかを学ぶことに充てる。そのうえで、今後の国際秩序の維持と平和の維持、構築の在り方について考える。

受講生の到達目標

平和維持の為の国連の役割と実際の活動について、限界を含め学ぶ。
紛争解決の為には、現地の複雑な事情、特に異なる発展段階からくる異なるものの見方や慣習についての理解が不可欠なことなど、世界の多様性について学ぶ。
冷戦終結直後のような自由民主主義についての楽観的な見方が影を潜め、ロシアや中国などが国際秩序の在り方に疑問を投げかけている状況の中で、国際秩序の在り方について自ら考える糸口を与える。

事前に履修しておくことが望まれる科目

授業スケジュール

授業回数/
担当教員(複数担当の場合)
テーマ
キーワード・文献・補足事項等
1

国際平和活動の歴史

第二次世界大戦後の国連の誕生とその最大の課題としての平和維持。
冷戦と国連平和維持活動(PKO)の誕生。冷戦後の平和活動の変質、複雑さの増大と国連の成功と失敗。
現在の平和活動の直面する課題と問題。

2

日本の平和活動

活動の歴史:国際平和協力法の成立とそれに基づく活動。
その限界と今後の課題。

3

3-10回は、平和活動の諸局面をアフガニスタンにおける実際の国連の活動を例に、経験を交えながら、考察する。その際、国連平和活動の複雑な諸相と課題への理解を深めることが期待される。

アフガニスタン問題と国連平和活動

国連の平和活動について理解を深めるために、アフガニスタンを例にとるので、まず、アフガニスタン問題について説明する。
歴史的経緯を含みアフガニスタン問題とは何かについて説明したのち、国際社会とその中での国連の役割について考察し、次回からのより踏み込んだ議論に備える。
国連の関与の態様(国連安全保障理事会によって与えられたマンデート、任務)、国際社会の20年に亘る関与とタリバンの復権、そして、国連平和活動(国際社会の関与の在り方)の反省点等を概観する。

4

内政の安定。民主的政治体制の確立:選挙

紛争後の平和構築は、国家建設を伴うことが多い。最も根本的な国際社会の関与である。
アフガニスタンの場合、国際社会は、全ての国民が代表される民主的政治体制の樹立を目指した。
国連はその為に国際社会を代表して活動した。政治勢力が対立する中で内政を安定させることの困難さと政治的に民主的な選挙を受け入れる土壌が十分でないところでの選挙(議会及び大統領)の困難さと問題を考察する。その際、国連の比較優位、限界をも考える。

5

和平と和解

タリバンが勢力を盛り返したことから、和平と和解は、政治的に最も重要な課題となった。
2001年9月の同時多発テロ事件の後、多国籍軍の攻撃を受けてタリバン政権は瓦解したが、2005年ごろから勢力を盛り返し、テロ攻撃を伴うタリバンの攻撃の下、治安は劇的に悪化。多数の民間人死傷者が生じる事態となった。米国を中心とするタリバン殲滅作戦は成果をもたらさず、2014年以降タリバンとの和解と和平を目的とする動きが本格化してくる。2020年2月に米国とタリバンとの間で合意が成立するが、同合意に基づく和平プロセスは進展せず、2021年8月15日、カブールはタリバンの下に陥落した。この間の和平の動きを概括し、紛争解決と和平プロセスにおける国際社会、特に国連の役割について、限界と課題を含め考察する。

6

主要関係国及び周辺国との関係

平和活動は、対象国と国連との関係だけで終わるものではない。関係国と周辺国を含む主要国との関係は、その行方を左右する。
アフガニスタンの場合、特にこの面の影響は大きい。アフガニスタンは、その地理的位置に鑑み、昔から大国の勢力争いの場所となり、「帝国の墓場」と言われてきた。
6カ国に囲まれた内陸国でもあり、タリバンもパキスタンに本拠を置いて戦ってきていた。
20年間の国際社会の支援に際しても、米ロ中欧日を始めとする主要関係国及びパキスタンとイランを含む近隣周辺国との関係は、大きな影響を与えた。
国連の平和活動もこれら諸国との関係なしには実施できなかった。その実態と問題点を考察する。

7

人権問題と法の支配、女性の権利擁護とエンパワーメント、報道の自由

平和活動で最も大事なことの一つが人権と法の支配である。紛争から立ち直る社会に持続可能な秩序と人間の尊厳を与えることは、平和活動の目的そのものである。
アフガニスタンの場合、戦闘とテロ活動の激化に伴い、1年間に約1万人の民間人死傷者(4000人近い死者)が生じる中、国連として民間人死傷者を減らす努力をタリバン、アフガニスタン政府、米国軍に対し行った。
また、戦闘が行われている社会であることに加え、保守的な伝統社会で活動することからくる問題も大きく、真剣な対応が取られた。その最たるものの一つが女性の権利擁護とエンパワーメントであった。
人権と人間の尊厳に関する諸問題について、国連の活動を説明すると共に、伝統的な社会において西洋流の自由主義の価値に基づく人権の考え方を適用することの難しさについても考察する。
また、腐敗は、国民の政府に対する信頼を蝕み、タリバン復活の大きな土壌になったと思われる。腐敗撲滅対策の難しさについても考察する。

8

難民問題と人道支援

現在、紛争による難民問題は、世界的に大きな問題になっている。アフガニスタンはその最たるものの一つである。パキスタンとイランに2-300万人ずつ以上の難民が流入し、トルコなど近隣国にも多くの難民がいる。加えて、国内避難民も数十万人出て、アフガニスタンにおける難民問題は、世界でも最も深刻なものの一つとなった。故緒方貞子女史が、国連難民高等弁務官としてアフガン難民のために尽力したことは良く知られている。この難民問題についての国連の努力を説明する。
また、アフガニスタンは、最貧国の一として、多大の人道支援を受けた。しかし、20年間の支援を経ても、貧困は無くならなかった。戦闘が続く中の人道支援の困難についても考察する。

9

開発援助と国際支援調整

平和活動の大きな活動の柱は開発支援である。まさに国家建設に繋がる活動である。
アフガニスタンにおいても開発支援と、ドナー国の支援の調整は最重要任務の一つであった。多くのドナー国や周辺国からの援助が行われ、その総額は、世銀に拠れば2001年から2020年までで770億ドルを超えた(もっと大きいとの数字もある)。この援助が効果的に、アフガニスタン政府の開発計画を支援する形で行われるように調整する役割を国連は担っていた。その為、年二度のハイレベルの国際会議を開催し、その内二年に一度は、閣僚会議であった。また、約20の国連専門機関がそれぞれの役割を担って活動しており、それらの活動を、効果的に調整する役割もあった。国連の果たした役割を説明し、課題について考察する。NGOの役割についても考察する。

10

アフガニスタンからの教訓:インタラクティブ・セッション

これまでのアフガニスタンについての考察を基に、国際社会と国連の平和活動の課題を考える。
このセッションでは、出来る限り、学生とのインタラクティブなものとすることとしたい。これまでの一連の講義での考察を基に疑問や考えをぶつけ合うセッションとなることを期待したい。
特に平和活動は、冷戦後、複雑かつ総合的なものへと変質してきているだけに、課題も多くなっている。
アフガニスタンでは、20年の努力にも拘らず、タリバンが復権した。成功に導けなかった要因を経験をも踏まえつつ考察する場としたい。

11

国連における平和活動についての検討と反省

11回以降は、アフガニスタンを離れ、国際平和活動と国際秩序維持など国連の活動全体についてより広く考察していく。
11回は、国連の平和活動全体を取り上げる。国連の平和活動は、成功例もあるが失敗もある。それを踏まえ、本格的な検討が二度行われている。最初のものは、2000年の「ブラヒミ報告書」で、元アルジェリアの外務大臣のブラヒミ氏の下でまとめられた。更に、2015年に潘基文事務総長の命を受けて「国連平和活動に関するハイレベル独立パネル報告書」が纏められた。これら報告書の主要論点を説明する。その内容は、現地への配慮の必要性など、アフガニスタンからの教訓と共通するものが多い。

12

グローバリゼーションと国際秩序:現代の課題

冷戦直後の世界における自由民主主義についての楽観的な見方は影を潜め、米国と中国の対立が懸念される中、国際秩序の維持については、見直しが進行している。国際社会における秩序維持の歴史を振り返り、グローバリゼーションが進むなか、現在国際社会が直面している課題を考察する。

13

現在の国際社会における平和維持と国連の役割

国連は、二度の世界大戦を経て、その参加を二度と繰り返さないとの頸椎の下に創設された。しかし、国債社旗の現実は、国連が当初抱かれた期待を破棄できるものではなかった。国連への期待と限界、及び、可能性について考察する。その際、安全保障理事会の問題点、憲章改正の困難さなどについて考察したのち、現在の動きを紹介する。

14

狭義の平和維持を超えての国連への期待

人類が将来に向けて共有する課題とその克服のために国連が果たせる役割についての期待は大きい。この分野で国連が果たしてきた役割と今後への期待について考察する。“Our Common Agenda”に見られる国連の動きも紹介する。

15

最終セッション;及び 国連で働くこと(国際公務員を希望する人へ)

履修者の数に応じた形で、コースのまとめとしてのインタラクティブなセッションとし、国際社会のあるべき姿、進むべき方向について議論する場とする。
また、国際公務員を目指す人の為に、国連で働くことと日本の外交官であることとの差などについて考える。また、国連職員になる方途などについても説明する。

授業実施形態

BCP停止の場合は、BCPレベル0~2の記載どおりに授業が行われます。
During the suspension period of BCP, classes will be as described in BCP levels 0-2.

各回の授業実施形態については、本科目のmanaba+Rコースニュース等で案内します。また、第1回目の授業実施形態については、第1回目授業開始までに上記コースニュース等でお知らせします(※)。なお、授業配慮等の取り扱いについては、manaba+R「国際関係学部生のページ」および「学び支援サイト」で確認してください。
国際関係学部生のページ:https://ct.ritsumei.ac.jp/ct/course_1728150
学び⽀援サイト:https://www.ritsumei.ac.jp/pathways-future/
(※) 第1回目授業の授業実施形態を確認するためにはmanaba+Rの早期利用申請を行う必要があります。早期利用申請の詳細は、2023年度履修・登録の手引きを御確認ください。なおmanaba+Rで早期利用申請をおこなっても受講登録にはなりません。受講登録期間中に改めて登録を行う必要があります。

授業外学習の指示

普段から国際社会の動向、とくに米中間のライヴァル競争など国際秩序の根本に係る動きや国連の主要な動きなどがニュースになる時は気を付けてみることが望ましい。
特にアフガニスタンについて講義している時は、教科書を読んでいることが望ましい。
また、授業用のリーディング・リクアイアメントは出さないが、前以て資料(例えば、国連のOur Common Agenda)が配布される場合は、目だけでも軽く通しておくことが望ましい。

成績評価方法

種別 割合(%) 評価基準等
定期試験(筆記)

レポート試験
(統一締切日を締切とするレポート)

上記以外の試験・レポート、平常点評価
(日常的な授業における取組状況の評価)
100

出席して授業をよく理解することが重要である。(60%)
授業中に区切れの良いところで簡単なレポートを書いてもらう。
二つのインタラクティブ・セッションの際の貢献も評価される。(併せて40%。比率は、受講者数を勘案して決める。)
複雑な状況の理解度と、それを踏まえ自らどう考えているかが評価される。

成績評価方法(備考)

授業は、複雑な問題を扱い、且つ、多岐に亘るので、授業に出て、よく理解することが重要である。
その理解の上に、自らの問題意識を持つことを評価する。
必ずしも答えがある世界ではないので、考え方をしっかり持つことが重要である。

受講および研究に関するアドバイス

扱う問題は、国際社会が、正に取り組みつつある問題である。
それだけに生きた問題だが、普段はあまり考えることが多くないと思われる途上国の現実を考え、人類の将来のために何をすることが必要かを考える機会でもある。先入観を持たずに、人間を大事にすることの重要性を意識して考えて欲しい。

教科書

書名 著者 出版社 ISBNコード 備考
アフガニスタの教訓 挑戦される国際秩序 山本忠通、内藤正典 集英社 978-4-08-721224

教科書(使用頻度、その他補足)

参考書

書名 著者 出版社 ISBNコード 備考
国際連合 明石康 岩波書店 4-00-431052-0
平和構築入門 篠田英朗 筑摩書房 978-4-480-06741-8
アフガニスタンを知るための70章 前田耕作、山内和也編著 明石書店 978-4-7503-5243-5

参考書(使用頻度、その他補足)

参考になるwwwページ

Report of the High-level Independent Panel on Peace Operations on uniting our strengths for peace: politics, partnership and people A/70/95–S/2015/446

授業内外における学生・教員間のコミュニケーションの方法

学生との直接対話

備考

【科目ナンバリング・カリキュラムマップはこちらから/Click here to see the Curriculum-Map and Course-Numbering】
URL:https://secure.ritsumei.ac.jp/students/pathways-future/course/curriculum.html/